過払い金返還請求の流れ
1 弁護士への相談と依頼
過払い金返還請求は、まず弁護士への法律相談から始まります。
相談を受けた弁護士は、業者名や取引時期など必要な情報の聴き取りを行い、過払い金が発生している可能性があると判断した場合は、依頼いただいた場合の費用をご説明し、委任契約を締結することとなります。
2 受任通知の送付と取引履歴の取り寄せ
過払い金返還請求の依頼を受けた弁護士は、対象業者に受任通知を送付し、取引履歴の開示を求めます。
この取引履歴には借り入れや返済の年月日や金額など、過払い金の計算に必要な情報が記載されています。
取引履歴が開示されるまでの期間は業者により区々ですが、早ければ2週間程度、遅いと2か月程度かかることもあります。
3 過払い金の計算
取引履歴が開示されたら、過払い金の計算作業に入ります。
計算結果は1週間から2週間程度で判明します。
4 過払い金の請求
過払い金の金額が判明しましたら、書面をもってその金額の返還を業者に請求し、回答を求めることになります。
回答期限は2週間後程度を設定しますが、期限内に回答がないケースも多々あるという印象です(業者にもよりますが、故意に遅らせているというよりは、業務過多のため期限内の回答が難しいということのようです)。
5 返還交渉
過払い金の返還請求に対する回答がありましたら、金額と返還日について交渉を開始します。
この交渉は1回の電話でまとまる場合もありますが、数回の交渉が必要になる場合もあります。
交渉がまとまりましたら、その内容(返還金額と返還日)について依頼者の方に検討いただき、問題ないということでしたら業者と和解することになります。
金額等に納得がいかない場合は再度交渉します。再交渉でも納得のいく金額等にならない場合は、訴訟を検討することになります。
6 訴訟
大きな争点があり、訴訟前の交渉だと納得のいく金額での和解ができない場合は、訴訟を提起することになります。
また、大きな争点がない場合でも、訴訟前の交渉では、業者にもよりますが和解金額はやや低くなる傾向がありますので、十分な金額の返還を求める場合は、訴訟による解決を行うことになります。
訴訟を提起した場合でも、ほとんどのケースでは和解により解決しています。
7 和解金の入金
和解金は法律事務所の預り金口座に振り込まれますので、和解により決めた日にちに和解金の入金がありましたら、弁護士報酬や実費の精算を行い、依頼者の方にお支払いして手続き終了となります。
以上が過払い金返還請求の大まかな流れとなります。
過払い金が発生する可能性がある人
1 過払い金が発生する理由
利息制限法は、10万円未満の貸し付けについては20%、10万円以上100万円未満の貸し付けについては18%、100万円以上の貸し付けについては15%という上限利率を定めています。
他方、出資法は、現在は20%を超える金利での貸し付けに刑事罰を科していますが、2010年6月に改正法が施行される直前は29.2%でした(なおこの出資法の上限金利は何度か改正され段階的に引き下げられていました)。
また、貸金業法は、当該法律が適用される貸金業者について、利息制限法の上限利率を超える利率の利息を受領した場合でも、一定の要件をみたす場合は有効になるという規定(みなし弁済といいます)を置いていましたが、同じく2010年6月に廃止されました。
過払い金は、貸金業者が利息制限法を超える利率で貸付を行っていたが、みなし弁済が適用されるための要件を充たしておらず、利息制限法を超える部分の利息の約定が無効になることにより発生します。
そのため、みなし弁済が廃止された2010年6月以降に初めて消費者金融やクレジットカード会社と契約し借り入れやキャッシングを始めた場合は、過払い金は発生しません。
2 貸金業法が適用されない業者
貸金業法は銀行や信用金庫、信用組合には適用されません。
そのため、銀行は利息制限法の制限利率を超える金利での貸し付けは行っていません。
そのため、例えば1995年からM銀行のカードローンを利用しているという場合でも、過払い金は発生していません。
3 貸金業法が適用されない取引
貸金業法は金銭の貸し付けに適用されます。
そのため、クレジットカードの場合、過払い金が発生する可能性があるのはローンまたはキャッシングになり、ショッピングでは発生しません。
また、車や家電等をショッピングクレジットで購入した場合も、過払い金は発生しません。
4 過払い金が発生する可能性がある人
以上をまとめると、過払い金が発生する可能性があるのは、2010年6月より前から、貸金業法が適用される消費者金融やクレジットカード会社から借り入れを行っていた方ということになります。
ただし、多くの消費者金融やクレジットカード会社は、2007年頃までには新規契約の貸付利率を利息制限法の上限金利以下に引き下げており、また、一部の業者(SMBCモビットなど)は利息制限法の上限利率を超える利率での貸し付けを一切行っていません。
さらに、業者から優良顧客と認定された場合は、早い時期から貸付金利が利息制限法の上限利率以下に下がっている場合もあります。
そのため、実際に過払い金が発生しているかどうかは、取引履歴の確認等によりケースバイケースで判断する必要があります。
過払い金の相談で必要となる資料
1 過払い金の相談と依頼後の手続きの流れ
2010年6月18日に施行された改正貸金業法により、利息制限法の上限利率を超える利率での貸し付けをすることはできなくなりました。
多くの業者は、2010年6月18日より前から新規契約者に対する貸付利率を利息制限法の上限利率以下に引き下げていましたが、過払い金が発生しているかどうかということについては、2010年6月17日以前から消費者金融会社またはクレジットカード会社と借り入れ(カードローン、キャッシング)の取引をしていたかどうかということが一つの目安になります。
過払い金の相談を受けた弁護士は、取引業者や借り入れ時期等の情報を基に過払い金発生の有無を判断し、発生している可能性がある場合は、依頼を受け手続きを進めることになります。
過払い金返還請求について依頼を受けた弁護士は、対象業者に対し受任通知を送付して取引履歴(借入および返済の年月日および金額などが記載されている書類です)の開示を求め、開示された取引履歴を基に過払い金の計算をして、対象業者にその返還を請求することになります。
2 過払い金の相談の際に必要となる資料
以上のように、過払い金の請求は、借り入れをしていた業者名を特定することができれば進めることが可能です。
そのため、過払い金の相談の際は、原則として資料がなくても問題はありません。
なお、借り入れの開始時期は、ATMの明細が残っていれば特定することが可能な場合もありますが(明細に「基本契約日」が記載されている場合があります)、取引の継続中に契約の切り替えを行っている場合は、基本契約日は切り替え後の契約の契約日になりますので、当初の契約の契約日はわかりません。
そのため、当初の契約の時期があいまいな場合でも、弁護士にご相談ください。
3 業者名が特定できない場合
なお、ATM明細等が残っておらず、借り入れをしていた業者名が特定できない場合、以下の方法により調べることが可能です。
① JICCおよびCICから信用情報を取り寄せる方法(過去に契約があった業者名が記載されています)
② 取引していたころの通帳を確認する方法(返済が口座振替の場合、業者名が記載されています。クレジットカード会社は通常口座振替での返済です)
これらの方法によっても業者名を特定できない場合は、可能性のある業者すべてに取引履歴の開示を請求するという方法もありますので(取引がなければ、取引なしとの回答が届きます)、業者名を特定する手掛かりとなる資料がない場合でも、お気軽にご相談ください。
手元に資料が残っていない場合の過払い金返還請求
1 過払い金返還請求の基本的な流れ
例えば消費者金融会社のA社から利息制限法の上限利率を超える貸付利率で長期間借り入れと返済を繰り返していたケースで、A社に対する過払い金返還請求を弁護士に依頼すると、依頼を受けた弁護士はA社に対し受任通知を送付し、取引履歴の開示を求めます。
開示された取引履歴には、借り入れおよび返済の年月日や金額等が記載されていますので、弁護士は、これらの情報を専用のソフトウエアに入力して過払い金の計算をします。
過払い金の金額が判明したら、その返還についてA社と交渉し、またはA社を被告として訴訟を提起して、過払い金を回収することになります。
以上のような流れとなりますので、取引のあった業者の名前が分かれば、契約書やカードが残っていなくても、過払い金返還請求の手続きを進めることができます。
2 取引のあった業者がわからない場合
⑴ カードや契約書等が残っておらず、かつ取引のあった業者の名前が分からない場合は、まず業者の特定を試みることになります。
取引のあった業者との契約終了後、それほど期間が経っていなければ、CICやJICCといった信用情報機関から信用情報を取り寄せれば、取引のあった業者名が記載されている可能性があります。
また、口座振替で返済していた場合は(クレジットカード会社の場合、ほとんどが口座振替です)、古い通帳(通帳がなくても、銀行の窓口で明細を取得することが一定期間は可能です)があれば、口座振替で返済していた業者を特定できる可能性があります。
⑵ 以上の手段を使っても業者を特定できない場合は、弁護士に過払い金返還請求を委任し、弁護士から、取引のあった可能性のある業者すべてに照会をかけるという方法も可能です。
例えば、大手消費者金融会社から借りていたことは間違いないのであれば、アコム、SMBCコンシューマーファイナンス(プロミス)、アイフル、新生フィナンシャルの4社に照会をかけることで、取引があった業者が判明する可能性があります。
3 取引履歴が残っていないケース
一部の業者では、例えば平成6年(1994年)以前の履歴(コンピューター記録)を削除してしまっているため、平成7年以降の履歴しか開示できない、というようなことがあります。
この場合、開示された平成7年以降の履歴のみで計算した過払い金の返還を請求することはもちろん可能ですが、平成6年以前の分は含まれないことになります。
このようなケースでも、返済を口座振替で行っており、かつその記録(通帳等)が残っている場合は、推定計算を行うことで平成6年以前の分を含めた過払い金の返還を請求できる場合があります。
以上のように、過払い金返還請求は、業者が分かっていれば可能ですし、可能性のある業者に照会をかけるという方法もあります。
お手元に資料がない場合でも、遠慮なくご相談いただければと思います。
過払い金返還請求における弁護士法人心の強み
1 過払い金返還請求の難易度
過払い金返還請求とは、消費者金融会社やクレジットカード会社からの借り入れの返済で支払った利息について、利息制限法の上限利率で計算した利息の金額を超える部分について返還を求めるものです。
利息制限法の上限利率を超える貸付利率を約定していた場合でも、改正前の貸金業法が規定していたみなし弁済の成立要件を充たしていれば有効でしたが、みなし弁済の成立要件を充たしていない場合は、利息制限法の上限利率を超える部分は無効になります。
かつては、みなし弁済が成立しているかどうかについて激しく争われていましたが、平成18年に最高裁判決が期限の利益喪失条項がある場合はみなし弁済の要件を充たさないと判示したことにより、過払い金返還請求の難易度は下がりました。
契約条項に期限の利益喪失条項がない貸金業者はまずなかったからです(なおこの最高裁判決後、期限の利益喪失条項を削除した業者はあります)。
また、過払い金の金額に影響する過払利息についても、平成19年の最高裁判例で、みなし弁済が成立しないときは原則として貸金業者は悪意の受益者と推定されるとされましたので、この点についても難易度は下がりました。
貸金業者が悪意の受益者の場合は、過払い金に利息を付して返済しなければならず、過払い金の金額によっては利息だけで数十万円を優に超えることがあります。
2 争点はまだまだ存在します
みなし弁済や悪意の受益者の点については請求者側の難易度は下がりましたが、過払い金返還請求については、まだまだ争点は存在しています。
従来からよく争われる争点としては、取引の途中に空白期間がある場合や、1回払い取引を継続した場合に争われる取引の一連性の争点があり、最近では、一部の消費者金融会社について、貸付停止措置と消滅時効の起算点が争点となっています。
これらの争点がある場合は、ある程度の経験がある弁護士が担当しないと、予想される解決について見誤ることや、訴訟で適切な主張立証ができないことも想定されます(予想される解決について見誤ると、経験ある弁護士が担当した場合と比べ低い金額で和解してしまうこともあり得ます)。
3 弁護士法人心の弁護士は経験豊富です
弁護士法人心では過払い金返還請求事件を主力業務の一つと位置付け、これまで多数の過払い金返還請求ご依頼を受けていますので、在籍する弁護士はノウハウを蓄積しています。
争点があるケースでも、安心してお任せいただければと思います。
なぜ過払い金が発生するのか
1 利息制限法と貸金業法
金銭消費貸借契約(お金の貸し借りの契約です)の貸付利率については、利息制限法が上限を規定しています。
具体的には、貸付金額が10万円未満の場合は20%、10万円以上100万円未満の場合は18%、100万円以上の場合は15%が上限として規定されています。
しかし、改正される前の貸金業法は、貸金業法が適用される業者については、一定の内容を記載した書面を借主に交付するなどの条件を満たせば、利息制限法の上限利率を超える利率での貸付を認めていました(もちろん貸金業法でも利率の上限を定めていました)。
この条件を満たした場合の返済を「みなし弁済」と呼んでいました。
そのため、多くの消費者金融業者やクレジットカード会社は、2007年頃まで20%を超える利率での貸付を行っていました(なお、消費者金融でも例えばSMBCモビットは当初から利息制限法の上限利率以下で貸付を行っており、また、早期に利率を利息制限法の上限利率以下に引き下げた業者もあります)。
現在はみなし弁済の制度は廃止されていますので、利息制限法の上限利率を超える利率での貸し付けはできません。
なお、銀行や信用金庫は貸金業法が適用されないため、貸付利率は昔から利息制限法の上限利率以下です(昔から取引があっても過払いは発生しません)。
2 みなし弁済
例えば、消費者金融会社が、2002年2月1日に、120万円を、みなし弁済が適用されることを前提に貸付利率25%で1年後に返済する約定で貸し付けていた場合、1年後の2003年1月31日に返済する利息は30万円となります(元利合計150万円を返済します)。
貸付金額が120万円の場合、利息制限法の上限利率は15%ですので、30万円の利息のうち、18万円を超える部分(12万円)は、みなし弁済が適用されないと無効となり、借主は、貸主に対しその返還を請求することができます。
この12万円が過払い金になります。
ほとんどの消費者金融会社やクレジットカード会社は、みなし弁済が適用される条件を厳密には順守していなかったため、一連の最高裁判決によってみなし弁済が成立する余地はほとんどなくなりました。
3 過払い金が増大する理由
例えば、消費者金融と上限額50万円の範囲で何度も借り入れができる金銭消費貸借を締結し(貸付利率は25%でリボ払いとします)、2002年3月1日に50万円を借り入れたとします。
その後、3月31日に1万5000円を返済した場合、利率25%だと返済金額のうち利息は1万0273円ですが、利息制限法の上限利率である18%の場合は、利息は7397円となります。
みなし弁済が成立しない場合、その差額である2876円が過払い金になりますが、最高裁判所により、この過払い金は、発生と同時に元金の返済に充てることが認められています。
つまり、発生した過払い金を直ちに元金に充当すると、3月31日の時点で、25%を前提とした残元金は49万5273円ですが、18%を前提とした元金は49万2397円となります。
消費者金融は25%を前提とした残元金49万5273円をベースに年利25%の利息を取り続けますので、借り入れと返済を長期間繰り返せば、いずれ元金が消滅し過払い金が膨れ上がることは容易に想像できると思います。
過払い金の請求にかかる期間
1 受任から過払い金の計算完了まで
過払い金返還請求について依頼いただきますと、まず、弁護士から対象業者に対し取引履歴の開示を求める通知を送付します。
取引履歴には、借り入れおよび返済の年月日と金額など、過払い金の計算に必要な情報が記載されています。
受任通知を送付してから取引履歴が開示されるまでの期間は、対象業者や取引内容によって区々です。
2週間程度で開示される業者もあれば、2、3か月かかる業者もあります。
取引履歴が開示されましたら、過払い金の計算作業に入りますが、この作業には通常、1週間から10日程度かかります。
つまり、弁護士法人心では、過払い金の金額が判明するまでに、取引履歴が開示されるまでの期間+過払い金の計算作業に必要な期間がかかるということになります。
2 任意交渉
過払い金の金額が決まりましたら、解決方法について決めることになります。
解決方法には任意の交渉と訴訟がありますが(もちろん任意の交渉がまとまらなければ訴訟になります)、過払い金返還請求の場合、すぐに訴訟を提起することも多いです。
特に、争点がある場合や、過払い金の金額が多く十分な金額の回収を希望する場合は、すぐに訴訟提起をします。
過払い金の金額が比較的少ない場合や、依頼者の方がある程度回収できればいいとお考えの場合は、任意交渉から開始しますが、この任意交渉についての業者の対応も業者によってまちまちです。
当方から請求書を送付し、2週間程度で回答をする業者もあれば、回答まで1か月程度かかる業者もあります。
回答を受けると、そこから合意に向けた交渉が始まりますが、この交渉についても、1週間程度でまとまることもあれば、数週間かかることもあります。
交渉がまとまり和解になると、和解金の返還期日を決めることになります。
この返還期日についても業者によってまちまちですが、和解から3、4か月後程度になることが多いです。
以上をまとめると、任意交渉の場合、当方から請求書を送付し、過払い金(和解金)が支払われるまで5、6か月程度はかかることになります。
3 訴訟
訴訟を提起する場合、まず、訴状等の書面を作成します。
この訴状の準備には2週間程度かかります。
訴訟提起後、裁判所から第1回目の期日調整の連絡が来ることになりますが、連絡が来るまでの期間は裁判所や担当部によってまちまちです。
1週間程度で連絡が来る場合もあれば、3週間程度経っても連絡がなく当方から確認の連絡をして期日の調整をする案件もあります。
第1回期日は、通常は1か月程度先に指定されますが、年末年始や、裁判所の異動時期にあたる場合は、2か月程度先になることもあります。
第1回期日が決まると、被告である業者に訴状が送達されることになりますが、目立った争点がない場合は、第1回期日前に和解についての連絡が業者からあり、第1回期日前に和解がまとまることが多くなっています。
この場合、返済期日は和解から3か月程度先になることが多いです。
第1回期日までに和解がまとまらなくても、目立った争点がなければ、第2回期日までにまとまることが多くなっています(第2回期日は通常、第1回期日の約1か月後に設定されます)。
重要な争点がある場合は、業者側も弁護士を代理人に選任することも多く、4、5回程度期日が行われることもあります。
解決方法としても、和解になる場合もあれば、判決になる場合もあります。
以上をまとめると、訴訟になった場合、目立った争点がないケースでは、訴状の準備から和解金の入金まで6、7か月程度は見ておく必要があります(なお目立った争点がなくても判決を取らないと十分な金額を回収できない業者もあり、そのようなケースではさらに2か月ほど多くかかります)。
重要な争点がある場合はケースバイケースで、訴状準備開始から1年程度かかることもあります。
過払い金返還請求を相談する専門家選びのポイント
1 過払い金を知らずに和解
利息制限法の上限利率を超える利率で貸付を行っていた消費者金融会社やクレジットカード会社に対する過払い金返還請求が本格的に始まって、15年以上が経過しています。
現在では、過払い金返還請求を知らない専門家はほとんどいないと思いますが、過払い金返還請求が始まったころは、それを知らない専門家も存在し、利息制限法の上限利率での引き直し計算をせずに、約定利率による残債務での弁済和解(任意整理)を行っていたケースもありました。
専門家が代理人として和解手続きを行うと、それを覆すのは極めて困難になります。
医者(病院)の場合、例えば腰の痛みでまず内科を受診する人はいないと思いますが、弁護士(法律事務所)の場合、当該弁護士(法律事務所)の専門分野についてあまり気にせず法律相談の申し込みをしている方もまだ多くいるように見受けられます。
専門外の弁護士に相談や委任をしてしまうと、不利益を受けることもあり得ますので、十分注意が必要です。
2 現時点ではどうか
過払い金返還請求が始まって15年以上が経過し、過払い金返還請求について専門家向けの書籍も出版されていますので、現在は、過払い金返還請求を知らずに約定残債務の金額で返済和解をしてしまう専門家はいないと思います。
また、悪意の受益者などいくつかの重要な争点は、最高裁判所の判決によって解決されています。
しかし、現在でも、取引の一連性や貸付停止措置を講じた時点を起算点とする時効の主張など、裁判で争われる争点は残っています。
そこで、過払い金返還請求を専門家に依頼する場合は、当該専門家のウェブサイト等を確認し、当該専門家がどの程度過払い金返還請求を扱ってきたのかを選択の一つの基準にするとよいでしょう。
もちろん、法律相談の際に経験数を聞くのも問題ないですので、遠慮なく聞いてください。
3 弁護士と司法書士
代理人として過払い金返還請求を扱うことができる専門家は、弁護士と認定司法書士ですが、司法書士は簡易裁判所の代理権のみ認められていますので、元金が140万円を超える過払い金返還請求について代理人となることはできません。
過払い金の正確な金額は、業者から開示される取引履歴を基に計算をしないとわかりませんので、最初から弁護士に相談することをお勧めします。
過払い金の利息と裁判官
1 過払い金の利息
過払い金が発生する場合、消費者金融会社やクレジットカード会社は、法律上、過払い金の元金のみならず、元金に対して民事法定利率による利息を付して返還しなければなりません。
例えば、2015年1月1日の完済時に100万円の過払い金の元金が発生していた場合は(完済時の過払い利息は0円とします)、消費者金融会社等は、100万円の元金に対して、年5%の利息を付して返還しなければなりません。
このケースで、5年後に過払い金の返還請求を行った場合には、25万円の過払い利息が発生していることになります。
完済前(または最終取引日前)に長期間返済のみをしていた場合は、完済時(または最終取引時)において既に多額の過払い利息が発生していることもあり、過払い利息のみで100万円を超えるケースもあります。
この過払い金の利息は、消費者金融業者やクレジットカード会社が「悪意の受益者」と認められた場合に発生するものですが、最高裁判所は、事実上、「悪意の受益者」でないことの立証を消費者金融業者等の側に求める解釈を採用していますので、「悪意の受益者」が否定されることはまずありません。
2 和解と過払い金の利息
過払い金の返還請求では、訴訟をすることも多いですが、訴訟を提起せずに任意交渉をして和解をする場合は、過払い金の元金をベースにした交渉になることが多いです(例えば、過払い金の元金の80%など)。
訴訟を提起し、訴訟内で和解する場合は、和解は互譲、すなわち相互が譲歩することが前提ですので、争点がないケースでは、過払い金の利息の一部をカットして和解することが通常です。
3 過払い金の利息と裁判官
しかし、訴訟をしていると、過払い金の元金をベースに和解の調整を行う裁判官も存在します。
これは、訴訟手続における和解の場合、元金をベースに調整を行うケースが多いことが影響しているものと思われます。
本稿の執筆者は、簡易裁判所の法廷で、裁判官が訴訟代理人である司法書士に対して「利息まで要求してはいけない」とも受け取れる発言をしていたのを聞いて驚いたことがあります。
確かに、通常の民事訴訟では、元金をベースにした和解調整でも問題ないと思います。
しかし、過払い金の返還請求では、そもそも消費者金融会社やクレジットカード会社は貸付金について高い利率の利息を取っていたのですから、借主側が過払い金の返還を請求する場面でも、ある程度の利息を返還させる前提で和解の調整を行うことは当然であると思われます。
取引の一連性の争点
1 古典的争点
過払い金返還請求訴訟において、取引の一連性は古典的な争点です。
取引の一連性の争点にはいくつかの種類がありますが、ここでは、業者との継続的金銭消費貸借取引(極度額の範囲内で何度でも借り入れができる取引)において、取引のない期間(空白期間)がある場合に、その空白期間前後の取引を一つの取引として過払い金の計算ができるかどうか、という問題を取り上げます。
空白期間前後の取引を一つの取引(一連の取引)として計算した場合は、過払い金の金額も大きくなりますし、消滅時効の起算点も、原則として空白期間後の取引の最終取引日となります(一連の取引として計算できない場合は、空白期間前の取引で生じた過払い金の消滅時効は空白期間前の取引の最終返済日になります)。
2 2つのパターン
取引に空白期間がある場合、大きく2つのパターンに分類することができます。
一つは、空白期間前の取引の継続的金銭消費貸借契約(これを基本契約といいます)に基づき空白期間後の取引が開始したケースです。
クレジットカード会社のキャッシングの場合、基本契約を解約する(=クレジットカードを解約する)ことはあまりないですので、このケースが多くなっています。
もう一つは、空白期間前の取引の基本契約は空白期間前の取引の終了に伴い解約され、空白期間後の取引は新たな基本契約に基づいて開始したケースです。
消費者金融からの借り入れの場合、完済により契約を解約する方もいらっしゃいますので、このケースも多くなります。
空白期間前後で基本契約が同一の場合、同一の契約に基づく取引ですので、原則として空白期間前後の取引は一連の取引となります。
空白期間が数年あっても同様です。
ただし、基本契約は同一でも、実質的には空白期間後の取引の際に新たな基本契約を締結したと言えるような場合は、例外的に一連性が否定されます。
例えば、空白期間が相当長期間で、空白期間後の取引を開始する際に与信審査やカードの再発行等が行われていた場合です。
空白期間前後で基本契約が異なる場合は、原則として取引の一連性は否定されます。
ただし、空白期間が比較的短期間で、空白期間前後の契約の内容(利率、極度額や返済方法等)が類似しているというような事情があった場合は、例外的に一連の取引とされます。
取引の一連性の判断には専門的知識が必要となりますので、詳しくは弁護士にご相談ください。
過払い金返還請求をするメリット・デメリット
1 はじめに
過払い金返還請求というのは、払い過ぎた利息を消費者金融やクレジットカード会社から返還してもらう手続きです。
1万円の商品を購入し銀行振り込みで代金を支払ったところ誤って10万円振り込んでしまった場合、買主に対し過剰に支払った9万円の返還を求めることになりますが、過払い金返還請求も法律的にはこれと同じです。
払い過ぎたお金を返してもらうということだけですので、それ自体にデメリットというものは存在しません。
逆に、お金の返還を受けると、その返還を受けたお金を残っている借金の返済に充てたりすることができますので、生活を再建することができるというメリットがあります。
中には、複数の消費者金融等から500万円を優に超える借金があったところ、利息制限法の上限利率で計算し直すとこの借金はゼロになり、逆に1000万円近くの過払い金が発生していたというケースもあり、回収した過払い金で、既に亡くなっていた両親のお墓を建立することができた方がいらっしゃいます。
2 デメリット
このように、過払い金返還請求には基本的にはメリットしかなく、請求自体にはデメリットはないですが、請求を行うことにより信用情報についてデメリットが生じる可能性があります。
まず、過払い金を請求する場合、請求する際の状況は3パターンあります。
① 消費者金融会社から借り入れを行っていて、現在約定残債務はないケース。
または、クレジットカード会社からキャッシングを行っていて、現在、キャッシングもショッピングも約定残債務がないケース。
② 消費者金融会社から借り入れを行っていて、現在約定残債務があるケース。
または、クレジットカード会社からキャッシングを行っていて、現在、そのキャッシングについて約定残債務があるケース。
③ クレジットカード会社からキャッシングを行っていて、ショッピング、または過払いの対象とならないキャッシングまたはローンについて残債務があるケース。
①のケースについては、信用情報は問題になりません。
安心して手続きを進めることができます。
②については、利息制限法の上限利率で計算すると約定残債務はゼロということになりますが、いったん約定残債務の返済をストップすることになりますので、業者によっては信用情報に影響が出る場合があります。
③については、発生している過払い金と、それ以外の債務を相殺して処理することになるため、その相殺という点では任意整理となり、信用情報に債務整理として登録されるものと思われます。
以上のとおり、過払い金返還請求を行うことにより信用情報に影響が生じるケースがありますので、弁護士とよく相談して手続きを進めることが重要となります。
過払い金返還請求のご依頼はお早めに
1 過払い相談の傾向
過払いが発生していない方のご相談が増えています。
消費者金融会社やクレジットカード会社が新規契約者の貸付利率を利息制限法の上限利率以内に下げてから10年以上が経過しており、また、2010年に武富士が倒産したことにより過払い金の存在が広く知れ渡ったため、過払い金が発生する内容の取引を行っていた方の多くは既に過払い金返還の請求を行っているものと思われます。
2 過払いがある方の現在の相談の傾向
⑴ 完済まで待っているケース
利息制限法の上限利率で引き直し計算を行うと過払いになっている場合でも、約定利率による債務が残っている場合は、その段階で過払い金返還請求を行うと、一時的であっても信用情報に影響を与えてしまいます。
そこで、約定利率による残債務を完済するまで、過払い金の請求をしない方が相当数いらっしゃいます。
たしかに、今後住宅ローンを借りる予定がある場合や、クレジットカードの利用が日常生活上必須であるという場合は、完済してから請求する方が安全です。
しかし、近時は、過払い金返還請求権の時効は最後の取引から10年、と言えないケースも増えており、また取引の分断がある可能性もありますので、過払い金返還請求を遅らせれば、それだけ時効のリスクが増えるということになります。
メリットとデメリットをよく考慮する必要があります。
⑵ 完済しないと過払い請求できないと誤解しているケース
完済しないと過払い請求はできない、と誤解している方が時々いらっしゃいます。
この点については、法律の専門家が一般の方々に正しい知識を伝えるよう努力しなければなりませんが、完済まで過払い金返還請求をしないと、⑴と同様のリスクが発生します。
なお、これと同類の誤解として、例えば、約定利率による残債務が50万円の時に弁護士に過払い金返還請求を依頼し、弁護士から150万円の過払い金が発生していると伝えると、差し引き100万円が返ってきますね、と言われることがあります。
過払い金の計算については、計算後、約定債務が残る場合は過払いではなく、過払いが発生している場合は約定債務はゼロになります。
⑶ 過払い金についての依頼をためらっているケース
例えば2000年から2005年ころ(利率の高い時期)から消費者金融会社と10年以上取引しているにもかかわらず、まず過払い金があるかどうかだけチェックしたい、という方がいらっしゃいます。
このような方々は、過払い金の返還を依頼してしまうと、もし過払い金がなかった場合、相当額の弁護士費用を支払うだけになってしまうという誤解を持っているようです。
弁護士法人心では、過払い金返還の依頼を受け、調査の結果過払い金がなく、または極めて少額であった場合でも、ご依頼者の方の収支がマイナスにならないよう配慮しています。
過払い金のチェックだけですと、弁護士は業者に対し過払い金返還の催告を行うことができませんので、万が一その時期が消滅時効期間満了の時期と重なっていた場合、過払い金返還の依頼をしていなかったために消滅時効で請求できなくなった、というデメリットも生じかねません。
お気軽に過払い金返還そのものを依頼いただければと思います。
過払い金が生じないケース
1 過払い金の相談
現在でも過払い金についての相談を受けることは比較的多いですが、6、7年以上前と異なり、「過払い金は生じません。」という回答で終了するケースが増えています(そのうち一定割合は任意整理等の債務整理に進むことになります)。
そこで、本項目では、過払い金が生じないケースについてまとめたいと思います。
2 利息制限法の上限利率以下での貸付けのケース
⑴ ほとんどの消費者金融およびクレジットカード会社は、2008年頃までには、新規契約者の借入利率を利息制限法の上限利率以下に変更しています(10万円以上100万円未満の借り入れの場合、利息制限法の上限利率は18%です)。
つまり、新規契約の利率を下げた後に消費者金融やクレジットカード会社と新規契約を締結して借り入れ(キャッシング)を開始した場合、過払い金が発生する余地はありません。
完済している場合は、消費者金融等から契約書が返還されていると思いますが、その契約書が当初の借り入れの契約書であり、かつ、通常利率が利息制限法の上限利率以下(上限利率は、極度額が10万円以上100万円未満の場合は18%、100万円以上の場合は15%です)になっている場合は、過払い金が発生する取引ではないことがわかります。
⑵ 銀行のローン(カードローン)は、古いものであっても利息制限法の上限利率以下での貸付けですので、過払い金は発生しません。
一定の条件の下に利息制限法の上限利率を超える利率での貸付けを認めていたのは貸金業法ですが、この法律は銀行には適用されませんので、そもそも銀行は利息制限法の上限利率を超える利率での貸付けはできませんでした。
⑶ 貸金業法が適用される消費者金融の場合でも、利息制限法の上限利率以下での貸付けしか行っていなかった業者もあります。
有名な業者ではモビット(現SMBCモビット)があります。
⑷ クレジットカード会社のキャッシングの場合、利息制限法の上限利率を超える取引と超えない取引が混在しているケースがあります。
例えば、1回払取引の場合は利息制限法の上限利率以下で、リボ払の場合は上限利率を超えるというクレジットカード会社があります。
この場合、利息制限法の上限利率以下のキャッシングしか利用していなかった場合は、過払い金は発生しません。
3 立替金(ショッピング)取引について
クレジットカードのショッピング取引については、その支払方法がリボ払であっても過払い金は発生しません。
一定の条件の下に利息制限法の上限利率を超える利率での貸付けを認めていた貸金業法はあくまで貸付けに適用されるもので、立替金取引には適用されません。
消費者金融の取引履歴の読み方
1 取引履歴
弁護士に任意整理または過払い金返還請求を依頼すると、弁護士は、受任通知を消費者金融会社やクレジットカード会社に送付し、継続的金銭消費貸借取引(キャッシング取引)の取引履歴の開示を請求します。
この取引履歴には、借り入れおよび返済を行った日の日付や金額等が記載されています。
この取引履歴は、弁護士のみが請求できるというわけではなく、消費者金融会社やクレジットカード会社と契約している方はどなたでも請求することができます。
2 消費者金融会社の取引履歴
消費者金融会社の場合、業者が契約者に送付する取引履歴と弁護士に送付する取引履歴に違いはほとんどなく、契約日、借入日、借入金額、返済日、返済金額、約定利率などの情報が記載されています。
記載内容は業者によって異なりますが、最大手のアコムの場合、契約日、借入日と借入金額、返済日と返済金額、次回返済期日、約定利率(損害金利率を含む)、解約日、契約や借り入れ等を行った際の方法(店頭かATMか)等、多くの情報が記載されており、どのような取引が行われたのかをある程度推測することができます。
例えば、取引の途中で残高がゼロになっている部分がある場合は、取引の分断が争われる可能性があります。
この場合、基本となる契約が同一かどうかが重要となりますが、アコムの場合、基本契約が解約されると通常、取引履歴に「解約」と表示されますので、基本契約の同一性をある程度容易に判断することができます。
また、取引の途中で約定利率が0%になっている場合、返済が厳しくなった等の事情により、業者と返済条件を変更する合意を行ったことが推測されます。
この場合、過払い金返還請求にあたっては、その合意(和解)が無効かどうかという点が争われる可能性があります。
なお、SMBCコンシューマーファイナンス(プロミス)の場合、契約者が請求した場合(または弁護士が取引履歴の請求のみ受任して請求した場合)の取引履歴には約定利率が記載されていますが、弁護士が任意整理または過払い金返還請求を受任して請求した場合の取引履歴には約定利率は記載されていません。
そのため、受任した弁護士はSMBCコンシューマーファイナンスに連絡して約定利率を確認する必要がありますが、過払い金返還請求慣れていない弁護士の場合、確認せずに引き直し計算をしている場合がありますので、注意が必要です。
貸金業者との和解の勧誘に応じる前に弁護士にご相談を
1 消費者金融の苦慮
かつては利息制限法の上限利率を超える利率で貸付を行っていた消費者金融会社やクレジットカード会社は、ほとんどの業者が2006年(平成19年)ころから2008年(平成20年)ころにかけて、新規契約の約定利率を利息制限法の上限利率以下に下げました。
また、利息制限法の上限利率を超える利率で借りていた利用者の約定利率も、時期は利用者によりまちまちですが、業者により利息制限法の上限利率以下に下げられました。
しかし、約定利率を利息制限法の上限利率以下に下げたとしても、その時点で引き直し計算をすると過払いになっていた場合はあまり意味がありません。
というのも、ある時点で利息も含めて200万円の過払い金が発生していた場合、業者が100万円を追加で貸付けたとしても、計算上は、200万円の過払い金からすぐにその返済に充てられてしまいますので、貸し付けた100万円について約定利率分の利息を取ることはできません。
つまり、計算上は既に過払いになっている利用者に対して追加で貸付けを行った場合、将来過払い金の返還を請求されれば、貸付けを行っただけ損失が膨らむことになります。
そこで、計算上過払い金が発生している利用者については、追加の貸付けを停止している例も多く見られます。
2 和解の勧誘に注意
このように、過払いが発生している利用者に対し追加の貸付けを行うと、将来過払い金の返還請求を受けた場合に損失が膨らみますので、追加の貸付けを停止している例が多く見られますが、それを超えて、和解の勧誘を行って和解を締結している例が見られます。
例えば、約定利率による残債務(引き直し計算前の残高のことです)が200万円の場合、約定利率が利息制限法の上限である15%に下げられていても、少なくない金額の利息が発生しますので、完済までの道のりは長くなります。
そのような利用者に対し、業者が、利息を0%にするからと声をかけ、和解の締結を勧誘しているケースがあります。
こうしたケースですと、引き直し計算をすると多額の過払いが発生していた場合でも、その和解契約の内容によっては、過払い金の請求ができなくなるおそれがあります。
業者から和解の勧誘をされた場合は、それに応じる前に、必ず弁護士に相談してください。
引き直し計算の注意点
1 引き直し計算とは
引き直し計算とは、利息制限法の上限利率を超える利率で借り入れを行っていた場合に、利率を上限利率に変更して計算し直すことをいいます。過払金を算出するためにはこの引き直し計算が必要ですが、引き直し計算を行うためのエクセルソフトはネット上から無料でダウンロードすることができ、そのエクセルソフトに消費者金融業者やクレジットカード会社から開示された取引履歴に記載されている情報(借入日と借入金額、返済日と返済金額等)を入力することにより過払い金を算出することになります。なお、過払い金が生じていない場合でも、このエクセルソフトへの入力により、利息制限法の上限利率を前提とした残高を計算することができます。
以下では、この引き直し計算を行う際の注意点について、何点か指摘したいと思います。
2 入力漏れ、入力間違い
消費者金融やクレジットカード会社との継続的な金銭消費貸借取引では、利用限度額の範囲で借り入れと返済を繰り返すのが普通で、その取引期間が10年以上になることも珍しくありません。
そうなりますと、エクセルソフトに打ち込まなければならない文字数も膨大になります。
消費者金融等から開示される取引履歴の中には、文字が小さいものもありますので、見間違うこともあり得ますし、エクセルソフトでは貸付けと返済は入力する列が異なりますので、例えば誤って貸付を返済欄に入力してしまうこともあります。
入力後は、入力したエクセルの表をプリントアウトし、入念にチェックすることが重要です。
3 利率の入力
エクセルには、借り入れと返済の日付および金額の情報のほかに、適用する利率も入力します。
利息制限法の上限利率は、貸付金額が10万円未満の場合は20%、10万円以上100万円未満の場合は18%、100万円以上の場合は15%になります。ただし、利用限度額の範囲で借り入れを繰り返す取引の場合、1万円ずつ借り入れて残高が10万円になった時点で、上限利率は20%から18%に切り替わることになりますので、エクセルの利率も変更する必要があります。
また、利用限度額が100万円で、エクセルでの計算上10万円以上100万円未満で推移していた残高が、利用限度額の引き上げに伴う借り入れの増加により100万円以上になった場合はその時点で上限利率は15%になりますが、その後返済により残高が100万円未満になったとしても、上限利率は15%のままになります(18%に戻るわけではありません)。
取引開始当初は利息制限法の上限利率を超える取引であった場合でも、取引の途中から利息制限法の上限利率未満の利率になっている場合がありますので、そのようなケースでは、約定利率が利息制限法の制限利率を下回った時点でエクセルに約定利率を入力することになります。
この操作については、専門家でも忘れることがありますので注意が必要です。
ただし、利息制限法の上限利率未満の利率になった時点では既に過払いになっていることも多く、その場合は貸付利率は問題になりませんので(発生している過払い金に法定利率による利息が付加されます)、利息制限法の上限利率のままにしてしまっていても、計算結果は同じになります。
過払い金返還請求を弁護士に依頼する時期
1 過払い金が発生していれば請求できる
一部の時期のみ利息制限法の上限利率を超えている場合も含め、利息制限法の上限利率を超える利率で消費者金融会社やクレジットカード会社と継続的に借りたり返したりを繰り返している場合、今も残高が残っていたとしても、利息制限法の上限利率で引き直し計算をするとその残高が無くなって、過払いの状態になっているケースが相当数あります。
過払い金が発生していれば、当然ですが、その返還を請求することができます。
なお、まれに、「全額返済しておらず残高が残っていると過払い金の請求ができない」と誤解されている方もいらっしゃいます。
しかし、過払い金が発生しているということは、その残高はもう無いということですので、過払い金の返還を請求することができます。
また、クレジットカード会社について、ショッピングの残高が残っていたとしても、過払い金の額の方が大きければ、ショッピングの残高を控除した残額を請求することができます。
2 信用情報との関係
借入金について既に完済しており、クレジットカード会社についてはショッピングの残高もない場合は、すぐに過払い金返還請求を弁護士に依頼していただいて問題ありません。
しかし、利息制限法の上限利率で引き直し計算をすると残高が消滅し過払いになっている場合も含めて借入金について残高が残っている場合や、ショッピングについて残高がある場合は、弁護士が代理人として介入すると、信用情報に事故情報が掲載されることになります。
借入れの約定残高やショッピングの残高について、一旦返済をストップするためです。
もちろん、過払い金返還請求について業者側と和解した場合は、約定残高やショッピングの残高は和解により確定的に消滅しますので、信用情報では完了となります。
しかし、日常生活にクレジットカードが必須の方や、今後住宅ローンを利用して住宅の購入を検討している方の場合は、借り入れの約定残高やショッピングの残高をすべて完済し、クレジットカード契約等を解約してから、過払い金返還請求を弁護士に依頼した方が安全でしょう。
ただし、過払い金返還請求の時期を遅らせる場合、取引の分断や貸付停止措置との関係で消滅時効の問題が発生することもあります。
そのため、完済する前に一度弁護士に相談いただくとよいでしょう。
過払い金には消滅時効があるためお早めに弁護士にご相談ください
1 過払い金の消滅時効
過払い金は、法律的には不当利得返還請求権(過払金返還請求権)という債権になるため、債権として10年の消滅時効が適用されます。
なお、消滅時効については令和2年4月1日から施行された改正民法により消滅時効期間等について改正がなされましたが、令和2年3月31日以前に消滅時効期間が開始している過払い金(令和2年3月31日以前に完済しているケース等です)には改正前民法が適用されますので、ここでは改正前民法が適用されるケースを前提にご説明します。
2 過払い金の消滅時効の起算点
過払金返還請求権の消滅時効の起算点(消滅時効期間のカウントが始まるスタート時点のことです)については最高裁判所の判決があります。その判決要旨は、「継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が、借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払い金が発生したときには、弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払い金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は、上記取引により生じた過払い金返還請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、上記取引が終了した時から進行する」という内容です(最高裁HPの裁判要旨)。
つまり、消費者金融からの借り入れやクレジットカードのキャッシングのように、基本となる契約に基づいて借り入れと返済を繰り返す取引の場合、「取引が終了した時」から消滅時効期間が進行することになりますが、これは、約定残高を完済していたときは完済の時、完済する前に返済をストップしていたときは最後の取引時(最後の取引が借り入れということもあり得ます)であると一般に考えられています。
このように考える根拠として、最高裁は、過払い金が発生した時点から時効期間が進行すると、借主は取引終了時ではなく過払い金が発生したときにその返還を請求しなければならず、そうなると借主に継続的金銭消費貸借を終了させること(=新たな借り入れができなくなること)を強制することになるという点を挙げています。
3 お早めに弁護士にご相談ください
この最高裁の判断を敷衍すると、取引の途中でも、新たな借り入れがあり得ないような事情が生じた場合には、新たな借り入れに対する借主の期待を保護する必要はなくなるため、その時点から消滅時効が進行する、という解釈も可能になります。
貸金業者側は、新たな借り入れがあり得なくなった事情として貸付停止措置(借入限度額を0円とすることです)を取ったということを挙げ、その措置を取った時点から消滅時効が進行すると主張してくることがあります。
この主張についての最高裁の判断はなく、高裁以下の裁判例の結論は分かれていますが、ここで注意が必要なのは、今現在も返済を継続している、または完済からそれほど時間が経っていないケースでも、10年以上前に貸付停止措置が執られていた場合は、10年前までに発生していた過払い金について消滅時効を主張される可能性があるということです。
時効は取引終了から10年と安易に判断することはせず、過払い金についてはお早めに弁護士にご相談ください。
過払い金返還請求における一連計算の争点について
1 はじめに
消費者金融やクレジットカード会社に対する過払い金返還請求が隆盛になったのは2000年代の後半ですので、それ以降既に10年以上が経過していることになります。
この間、裁判で争われる件数も多かったですので、最高裁判所や下級審裁判所(高等裁判所、地方裁裁判所、簡易裁判所)の判決によって、過払い金返還請求に関する争点についての判断が多数示されてきました。
最高裁判所による判決で有名なものの一つは、悪意の受益者の争点についての平成19年7月17日判決です。
この判決により、貸金業者等は原則として悪意の受益者であると推定される、とされました。
そのため、一部の消費者金融業者は、悪意の受益者であるとの推定を覆すため、ATMジャーナル等の大量の証拠を提出して争ってきていましたが、下級審判決の大半は、消費者金融業者は悪意の受益者であると認定し、また一部の業者については最高裁判決によって悪意の受益者とされたため、現在では、裁判で悪意の受益者が争点となることはほとんどありません。
なお、貸金業者等が悪意の受益者とされた場合、発生した過払い金に5%の利息が付されますので(ただし改正民法が適用される事案の場合は3%になります)、場合によっては利息だけで何十万円にもなり、業者にとっては重い負担となります。
ここでは、現在でも争われる一連計算の争点についてご紹介します。
2 一連計算について
いわゆる一連計算と言われる争点にもいくつかの類型がありますが、ここでは、事案も多い2つの類型を紹介します。
まず、ケースも多く貸金業者等からよく争われる類型は、利用限度額の範囲内で何度も借り入れが可能な継続的金銭消費貸借の取引で、取引の途中でいったん完済している類型です。
例えば、利用限度額50万円の契約で平成10年4月1日から借り入れを開始し、平成17年3月31日にいったん完済したものの、平成17年12月1日に再度借り入れをして取引を再開した、というケースです。
このケースの場合、完済の前後の基本契約が同じかどうかによって判断の枠組みが異なります。
その判断枠組みは最高裁判決によって示されていますが、とくに完済の前後で基本契約が異なっている場合は、一連計算が認められるためにはいくつかの要件を充たす必要がありますので、訴訟においてもその要件の充足の有無を巡って激しく争われることがあります。
次に、一回払取引について一連計算が可能かどうかという争点があります。
クレジットカード会社のキャッシングの場合、主な返済方式としてリボ払いと一回払いがあり、一回払いの場合、一つの借り入れに対する返済は一回で完了します。
例えば、ある月の1日から月末までに借り入れた金銭については翌々月の15日に利息を付して一括で返済する、というような取引です。
この一回払取引を基本契約に基づき繰り返し行った場合に、それぞれの一回払取引を一つの取引として一連計算できるかどうかが争われます。
この争点については、最高裁判所の判決はなく、高裁判決も判断は分れています。